2013/10/28

久しぶりに本の感想を 〜天地明察〜

相変わらずいろいろと本を読んでいるのですが、なかなか感想を書く時間が無い今日この頃。
ただ、この本の感想はなんとしても書かねばなるまい。
なにせ僕が今まで読んだ小説の中で群を抜いて一番となったんだから。

ということで今日の本は冲方丁の「天地明察」です。

舞台は四代将軍家綱が治める江戸、主人公は碁打ちの家系の渋川春海。
春海の本名は安井算哲というのだが、家柄と関係の無い人付き合いの時は渋川春海という自分で考えた名を名乗る変わった人物。
碁打ちとしての腕もキラリと光るものを持っているのだが、春海自身は天文学と算術に興味があり、自分の家の庭に日時計を作り、算術書を読み漁りながらお城で碁を打つ日々を送る。

そんな春海が休日に渋谷の神社に向かうところから物語がスタートする。
というのも、渋谷には算術の問題が書かれた絵馬が所狭しと掛けられている神社があり、そこでは誰でも算術の問題を出題でき、また、自由に解答を書き込めるのである。
回答があっていれば、出題者がその解答に「明察」と書き、間違っている場合は「誤謬」と書く。
今でいうネット上の算術掲示板のようなものが、江戸時代の神社にはあったのである。

その神社に着き、数多の数学の問題に出合い、感動しながら問題を写す春海の前に一人の女性が。
箒を逆さに持ち、春海をいきなり叱る、”えん”という女性との出会い。

この渋谷の神社に出されていた問題が図付きで紹介されているのだが、いきなり難問。
僕も結構算術(数学)は得意な方だけど、解けなかった。。
うーん、このころからこのレベルの算術が解かれていたのかぁ。

その後、訪れた算術の塾で、算術の天才”解答さん”という異名を持つ”関孝和”の名も伝え聞く。
(実際に春海が関と会うのはだいぶ先の話になる)

こうして算術の腕を磨くうちに春海の名は知る人ぞ知ることとなり、ある日時の大老、酒井から命じられ、日本各地での星の観測の旅に同行することになる。
そこで知り合った観測隊、初めて見る観測機。

観測初日、観測機の建設が終わると、隊長と副隊長が何やら方角を言い合うのである。
星の出る方角を当てっこしていた。
なんと観測隊の隊長と副隊長は江戸からずっと歩数を数えていて、それを元に星の出る角度を予想していたのである。
圧倒される春海もその場から次の観測場所へ向かう時、歩数を数え予測を立てるとなんとピタリと的中。
隊長と副隊長もこれには驚き、天に愛されている方だ!という話になる。

なんかこのあたりは、麻雀漫画「天牌」で、主人公の瞬が麻雀を覚えたその日に天和を上がったという話に似てる。
あ、話がそれた。

その後無事観測が終わり江戸に戻り、しばらく後、今度は改暦プロジェクトのリーダーに大抜擢されるのであった。
この当時は宣明暦という800年も前に制定された暦を使っており、既に現実にそぐわなくなってきていたのである。
ちなみにこの時既に春海は”こと”という女性と結婚していた。

まぁ、江戸時代から既に日食や月食の観測から、それらがいつ起こるか予測されていたということが驚きでもあるのだが、この時点で宣明暦では2日のズレが生じていたらしい。
そこで、改暦として、当時の中国で最先端であった授時暦を日本に持ち込もうと試みる。
が、改暦あと一歩のところで失敗。

改暦の失敗、妻”こと”の病死、自分の無力さに苛まれる春海。

そこから数々の出会いと別れを繰り返しながら、改暦プロジェクトを遂行していく春海の姿に僕は猛烈に引きこまれ、仕事の合間や電車内でひたすら読み続ける毎日だった。
同じく既に結婚していた”えん”との再会の話も気持ちの良い展開。

改暦プロジェクトもさることながら、当時の会津藩藩主、保科正之の偉業も印象深かった。
徳川家康が江戸幕府を開いて4代目となったこの当時、戦争のない世の中となる中で武士の役割は無くなっていった。
そんな中、天候不順が原因の飢饉から、一向一揆が起こり、それを即座に征伐したのが保科正之であった。

しかし、この時征伐した35人の生命の重さを背負った保科は、

「なぜ一揆が起こるのか?」→「飢饉が起こるからだ」

「ではなぜ飢饉が起こるのか?」→「天候不順は仕方がない。その際に蓄えがないことが飢饉の原因だ」

「なぜ蓄えがないのか?」→「藩主がそのような対策を取らないからだ」

こういった考えから、「一揆が起こるのは藩主の責任である」と結論づける。
それから会津藩では毎年の年貢を少しずつ蓄え、天候不順の際は蓄えた米を農民に与えるという政策を行った。
そして、「会津藩に飢饉なし」と言われるまでになるのである。

他にも保科正之の良政の数々が登場。
戦国時代から太平の世の中に移る中、武士の役割を大転換させ、その後100年に渡る江戸時代の礎を作った名藩主だったのである。

その保科に命じられ、春海は改暦の儀に挑むわけであるが。。

まだまだ書きたいことはあるけど、終わらないのでこの辺で終えておこう。

最後に、渋川春海の人物像や、春海が完成させた貞享暦(物語の中では大和暦)のウィキペディアへのリンクを貼っておこうと思う。

渋川春海
貞享暦

とにかく超面白いので、ぜひ読んでみてほしい。
特に数学や天文学が好きなら絶対読むべき名書だと思う。

紹介してくれた親父の友人に大感謝!

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